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1日1報のペースで論文は撤回されている
昨今、データの改ざんによる論文の撤回が日本でも取りざたされていますが、論文撤回数は、世界的に見ても顕著な増加傾向を示しています。SinghらがPubMedとMedlineのデータベース検索に基づく調査を行ったところ(Journal of Traditional and Complementary Medicine Vol. 4, No. 3, pp. 136-139)、2013年に撤回された論文の数は402報だったそうです。この数がいかに多いかを考えるには、「1日1報のペースで撤回されている」と考えるのがわかりやすいと思います。この数自体、非常に問題視すべき水準と言えますが、残念なことに増加傾向にあることも同論文では述べられています。すなわち、2004年には年間69報だったものが、2年後にはあっさりと100報を突破し、その後は2010年に前年比で微減したのを例外として毎年増えているのです。撤回される論文の絶対数の増加は、インターネットの普及とそれに関連したオープンアクセスの一般化による論文数そのものの増加とある程度比例しているはずですが、「本来公表すべきでなかった論文」が毎日のように明らかになるというのは決して望ましい状況とは言えません。
Singhらは上述の論文で、撤回理由についても集計しています。具体的には、データの改ざん、誤り、剽窃、多重発表、著者名一覧に関する異議申し立てや著作権侵害などです。それによると、撤回理由のトップ3は、2004~2008年でも2009~2013年でも同じで、多いものから順に、「誤り」(作為的でない者)、「剽窃」、「多重発表」の順でした。しかし、前半の5年間から後半の5年間への増加率をみると、「誤り」は2倍強しか増えていないのに対し、「剽窃」と「多重発表」は3倍以上の増加を示しており、特に「剽窃」はいずれトップに躍り出るのではないかというところまできています。インターネットを利用したオンライン投稿が一般化し、複数のジャーナルに簡単に投稿できるようになったことや、公表済みの内容(自身のものであれ他者のものであれ)をコピー&ペーストして論文を組み立てることが技術的に可能となったことが背景にあるのかもしれません。
唯一の救いは、発表されて撤回されるまでの期間が短くなってきていることでしょうか。Singhらの報告によると、2004年時点では、発表から撤回までの平均期間は40ヶ月だったのに対し、2013年にはなんと8ヶ月にまで短縮されてきているようです。情報網の発達により、問題のある論文に対しては早い段階でケチがつき、場合によっては撤回に至るという流れができつつあるのかもしれません。