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適切なオーサーシップへの道のりは長い

山崎茂明氏の近刊著書「科学論文のミスコンダクト」(丸善出版)を読ませていただきました。このところとみに問題になっている科学論文の不正の問題について、データや自らの調査結果をもとに述べたアカデミックな内容でした。トピックがトピックだけに、センセーショナルに取り上げる手法も考えられるところですが、本書からはむしろ教科書のような整然さが滲み出ています。


山崎氏は研究不正をテーマに講演を行う際に、「不正行為」ではなく「ミスコンダクト」という言葉を使うようにしているそうです。その理由は、「不正行為」という表現を使うと話し手と聞き手の間に無用な緊張が生じるからだそうです。不正をことさらに強調するのではなく、事実を客観的に受け止めて改善策を見出していくという姿勢がうかがえます。


科学技術論文の発表における透明性すなわちtransparencyに対する認識は日本でもここ数年で高まっているように思えます。特に利益相反に関していえば、研究の実施や論文の執筆において大学の研究者が製薬企業とどのような関係にあったかを明らかにすることが重要視されてきています。しかし一方で、本書でも取り上げられていますが、著者の寄与内容すなわちcontributorshipに関しては透明化が進んでいるとは言い難く、近い将来改善されるとも考えにくいところがあります。事実、今日では多くのジャーナルがICMJEのオーサーシップ基準を自己の投稿規程に採用していますが、実際に各誌で発表される論文の著者全員がこの基準を満たしているのかどうか、疑わしいところがあります。本書の一節では、「若手研究者の声」として、氏がアンケートやメールのやりとりで得た若手研究者の感想を紹介していますが、多くの若手研究者は、例えば論文執筆に実質的に関与していないボスの名を著者として加えることに対して、おかしいと感じながらも声をあげることができなかったり、あるいは当たり前のこととして受け入れている現状が紹介されています。


この問題には、著者でない人間が著者としてリストされるという矛盾の側面があることから、そもそも著者(authors)という語を用いず貢献者(contributors)と呼称すればよいのでは、という発想も出てきます。しかし、これでは辻褄合わせにしかなっておらず、実質的な貢献をしていない人間が容易にリストされるという問題の根本的解決には繋がりません。そこで近年では謝辞(acknowledgments)の項もしくはその前後に各々の著者の貢献内容を記すことを義務付けるジャーナルが少しずつ増えてきており、一定の効果をあげているようです。


考えてみると、著者の資格を満たさない者(例えば統計解析にのみ協力した者)については謝辞でその貢献内容について公にするにもかかわらず、著者がそれぞれ何をしたかが分からないというのもおかしな話です。もっとも、昔は複数名のグループで執筆することは一般的ではなかったので、データ集めから解析、執筆まで全て1~2名でやるのが当たり前で、逐一投稿論文上で明らかにする必要もなかったのでしょうが、今日のように大人数で執筆するのが通例になってくると、誰が何をやったかを明示する意義が高まってくるのは必然の流れといえるでしょう。


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