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表現の曖昧さを回避する
英語の諺に“Two is company, but three is none.”というのがあります。これは、「二人だと仲間だけれど、三人になると仲間割れする」という意味です。類似の表現として、“Two is company, but three is a crowd.”(「二人だと仲間、三人だと群衆」)というのもあります。なかなか示唆的な表現ですね。2つなら良いのに3つになると良くないことというのは、実はメディカルライティングにおいても存在します。
以下のフレーズを解釈してみてください。
non-diabetic retinopathy patients
単にretinopathy patientsと書いてあるだけなら、誰でも間違えることなく「網膜症の患者」と理解できます。retinopathyもpatientsも名詞ですが、この2つだけなら修飾と被修飾の関係が明らかで、容易に読みとることができます。あるいは、retinopathyかpatientsを取って、non-diabetic patientsやnon-diabetic retinopathyならば、やはり修飾・被修飾の関係を見誤ることはないでしょう。ところが、最初に書いたように3要素が連なったとたん、曖昧さに頭を抱えなければならなくなります。
一つ目の解釈として考えられるのは、“non-diabetic”と“retinopathy patients”の間で区切り、「糖尿病に罹患していない、網膜症の患者」というものです。可能性として考えられるのは高血圧性網膜症などでしょうか。ただ、“non-diabetic”と“retinopathy patients”の間にカンマがあれば確実にこのように理解できるのですが、そうではないので確信が持てません。
二つ目の解釈は、“non-diabetic retinopathy”と“patients”の間で区切り、かつ、“non-”が“diabetic retinopathy”を修飾するとみなし、「糖尿病性網膜症に罹患していない(が他の何らかの疾患を持つ)患者」と読みとるものです。糖尿病性網膜症が否定されているに過ぎないので、ここでの「他の何らかの疾患」は文脈次第で高血圧性網膜症にもなれば癌にもなりえます。
これらに加え、日本では糖尿病網膜症の病期のひとつとして非糖尿病網膜症(non diabetic retinopathy)というのがあるそうです。もっとも、この表現自体が世界的に一般的かどうかは疑問ですが、仮にこれに“patients”がついたものと仮定すると、「非糖尿病網膜症の患者」という特定の患者群を指す語にすらなってしまいます。
いずれにしても、こうした曖昧さは、名詞や形容詞を3つ以上連続させて修飾関係を不明確にしてしまったことに起因します。このような表現はfreight-train phrase(貨物列車のようなフレーズ)などと呼ばれており、複数の解釈が成り立つと考えられる場合には避けるのが無難です。ちなみに“freight-train phrase”自体も3つの単語から成っていますが、“freight”と“train”の間に適切なハイフンを入れることで曖昧さを回避しています。
トップノッチの英文校正では、科学技術論文としてふさわしくない曖昧表現はできるだけ避けるよう努めています。