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治験コーディネーターの方々の奮闘に想いを馳せる

治験の調整役として欠かせない存在である治験コーディネーター。一般にCRCとも呼ばれるこの職業について書かれた「CRC(治験コーディネーター)という仕事」(丸山由起子著、株式会社メディカル・パブリケーションズ刊)という本があります。CRCになりたい人に向けたハウツー本というより、CRCとして働いてきた著者の経験談が満載の読み物として楽しめる一冊です。CRCを志す人々だけでなく、治験に携わる医師や治験モニターの方々にもお奨めできる内容です。


コーディネーターとは調整役のこと。だからCRCは、病院で専門的な仕事に携わるあらゆる人々の間で、彼ら彼女らが力を発揮できるように動く必要があります。そこで大事なことは、丸山氏によると、「調整しなければならない部署(人)の存在を肯定する」だそうです。もちろん、単なるイエスマンになったりせず、間違っていることは指摘し是正を促すことも必要なのですが、まずは相手のことを肯定するところからスタートする。CRCに限らず、人の間に立って仕事をする多くの人々にとって非常に重要な考え方ではないでしょうか。


本書では、CRCの業務に特化した話題から更に拡大し、治験そのものの問題点についても言及されています。治験において被験者に支払われる負担軽減費というものがありますが、「被験者のプロ」と呼ばれる人々がいて治験の不実に繋がっているのではという指摘もありました。以下の一節はCRCの率直な気持ちをよく表しているように思います。


治験が終わったとたんに来院しなくなる患者さんがいる。善意ある被験者が多い中、ひょっとして「お金が目当て?」という気持ちが浮かんでしまうことがある。こんなことを疑いだすと、「薬を飲んだといっているけど、ゴミ箱に入れたんじゃないかな?」など、疑ってはいけないと思いつつ、私も人間、疑ってしまう。


氏は、負担軽減費がなかった頃から従事していた経験から、負担軽減費の存在に疑問を持つことがあると告白しています。


一方で、治験に被験者として参加する患者さんに対して、様々な感情、とりわけ申し訳ない気持ちを抱くケースはやはり多いようです。例えば、治験薬は、ひとたび治験が終了すると、たとえそれが大きな効果を発揮したとしても、原則として投与終了しなくてはいけないわけですが、それを被験者に伝えるのはつらいものがあるようです。


効果があった被験者の投与期間終了は、かなり心が痛む。お会いするたびに元気になり、CRCが天使に見えているこの時に、「もう、このお薬は、終わりになります。今、市販されている薬の中で、一番よいと先生が判断してくださる薬になると思います。相談していきましょう。」と説明し、あとは医師に任せるしかない。


治験の性質上しかたのないことではあるのですが、一人ひとりの患者さんを思えばこそ、このような葛藤は避けられないのだと思います。


また、上述の場合は、「効いているのに止めなければならない」パターンですが、「最初からあまり効果が期待できない」ような治験についても、いち医療従事者として気が進まないことがあるといいます。抗がん剤の第1相試験においては、安全性を検討するために、効果の期待される量より遥かに少ない量から投与を開始しなければなりませんが、それゆえに患者さんに効果がみられる可能性が低くなってしまいます。


(前略)自分の病院では、量が少ない間はやりたくないなとよく思った。もちろん、量が少ないと、副作用が少なく安全ではある。その一方で、治験というチャンスに賭けてきている被験者をみていると、少しでもがんが小さくなってもらいたいために少ない量では、やりたくなかった。


これについて、氏自身、「CRCとして考えてはならないことかもしれない」と前置きしたうえで、「でも、CRCだって人間なのだ。心がある」と告白しています。


本書を読むと、CRCが治験において重要な役割を果たしていることが手に取るように分かりますし、その能力によって治験の成功が大きく左右されることも容易に想像できます。興味のある方は是非手に取ってみるとよいでしょう。


ところで筆者は、モニタリング報告が通称「モニホー」と呼ばれていることを、本書を読んではじめて知りました。


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