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当たり前のことは先に述べる
前回のブログで、既知の情報と未知の情報を同一文中で提示する際の適切な語順について述べました。関連するテーマをもう少し掘り下げてみたいと思います。
医学論文の冒頭すなわちIntroductionでは、当該論文中で言及したい疾患について、そのあらましを提示することが一般的です。例えば、乳癌についての論文であれば、
1. 「乳癌は女性の癌の中でもっとも一般的である」
2. 「乳癌に罹患した女性の5年生存率は90%である」
というような情報が提示されることがよくあります。
これをそれぞれ英文にすると、
Breast cancer is the most common cancer in women.
It (= breast cancer) has a five-year overall survival rate of 90%.
と書くことができますが、ちょっとぶつ切りな感じで稚拙と言えなくもありません。そこで、2文を単純にandでつなぎ、
Breast cancer is the most common cancer in women and it has a five-year overall survival rate of 90%.
としてもよいのですが、関係詞の非制限用法を用いて以下のように表すこともできます。
Breast cancer, which is the most common cancer in women, has a five-year overall survival rate of 90%.
という文ですね。ここで注意して欲しいのは、「関係詞節に入っているのは上記2の情報ではなく1の情報である」ということです。1の情報は、2の情報に比べてより一般的な情報であり、特に医学論文を読む専門家にとっては周知の事実と言えます。従って、この文で伝えたいことは、確かに1と2の両方の情報ではあるのですが、より重要な(伝えたい)のは2のほうなのです。関係詞節に2の情報を入れて、
Breast cancer, which has a five-year overall survival rate of 90%, is the most common cancer in women.
としてしまうと、「乳癌は女性の癌の中でもっとも一般的である」という情報が新情報のように映り、奇異な感じがしますし、「5年生存率=90%」という情報があたかも当たり前のように記されているのも変な感じがします。
関係詞を用いて2文を1文にすること自体は難しいことではありませんが、何がより重要な新情報であるかという点に留意する必要があります。