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医療否定本の否定本
日本医科大学腫瘍内科の勝俣範之先生による著書「医療否定本の嘘」(扶桑社)を読ませていただきました。サブタイトルに「ミリオンセラー近藤本に騙されないがん治療の真実」とあるように、主に近藤誠先生によって著されてきた医療否定本に対する回答の性質を持つ書籍です。
医療否定本には確かに頷ける部分もあるものですが、専門家なら誰でもわかるような穴が含まれており、それらの内容によって医療者が提供する医療が影響を受けることなどまずないでしょう。しかしながら、一般の書店等で入手可能であるために、専門家以外の多くの人々、とりわけ重い病で苦しんでいる患者さんやそのご家族の目にとまり、そうした人々の病との向き合いかたに大きな影響を与えています。当然、彼ら彼女らが医療者と面談する際にこうした書籍の内容が引き合いに出され、医療者が対応に苦慮することもあるでしょう。
勝俣先生は本書の冒頭で近藤先生の功績を認め、礼をつくした上で、「がんもどき理論」等の問題点を丁寧に指摘しています。論文ではないので、一般人にも十分に理解のできる言葉で書かれた良書であると同時に、勝俣先生自身の医療に対する真摯な姿勢が伝わってきます。なにより、先生は医療否定本を否定するという近視眼的な発想にとらわれておらず、そうしたものがなぜこれだけ世に受け入れられているのかという背景の問題(例えば医師と患者のコミュニケーション不足)について非常に自覚的です。本書のあとがきにある次の文章がこれを端的に表しているように感じられます。
「医療否定本を否定することだけでは、問題は解決しません。問題は、医療否定本が生まれた背景にあると思っています。だから、まず、我々医療者が衿を正さなければいけません。」