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中枢神経系ではないCNS
CNSと言えば、central nervous systemすなわち中枢神経系のことであることは多くの方がご存知ですが、アカデミアにおいては、科学雑誌の世界で特に有名な3誌であるCell、Nature、Scienceを指す言葉としても使われています。これらの雑誌は、インパクトファクターが30を超える非常に影響力の強い媒体であり、研究者が自身の論文をこれらの雑誌で発表することは大きな名誉であるとされます。当然、キャリアを築く上でも大きな意味を持つとされています。
しかし、杉晴夫先生が著書「論文捏造はなぜ起きたのか?」でも指摘されているとおり、商業誌である以上、たとえ有名な雑誌と言えども購読者数を確保することは不可欠であり、また、インターネットを利した多数の新雑誌の誕生により、既存の雑誌が従来通りのプレゼンスを保てるか否かは大きな課題となっているはずです。いきおい、「研究者数の多い分野の論文を恣意的に優先して掲載する」ということも起こり得ると考えられます。この背景には、アカデミアにおけるインパクトファクターの偏重もありますが、たとえ代替となるファクターが考案され一般に適用されるようになったとしても、ある種の人気ランキング的側面が完全に除外されることはないでしょう。
興味深いことに、2013年には、ノーベル賞を受賞したランディ・シェックマン博士が「今後CNSには論文を投稿しないと宣言する」という事態が起こりました。シェックマン博士によると、これらの“luxury”な雑誌は、「あたかもファッション・デザイナーが限定版のハンドバッグを作って需要を刺激するかのように、あえてアクセプトする論文数を制限している」のだそうです。また、前述の杉先生の著書では、先生と親交のあったノーベル賞受賞者のアンドリュー・ハクスレー氏が、“Nature is no longer useful!”と憤懣を述べたと記されています。
シェックマン博士のような、(多くの研究者からすると)大胆と思われるような宣言は、「ノーベル賞を取ったからこそ言えるのだ」という指摘も当然あります。実際、現在のアカデミア環境において、CNSをはじめとする高インパクトファクターの雑誌を無視してキャリア形成を図ることは考えにくいものがあります。いずれにせよ、近年、とりわけインターネットが普及して以降の科学雑誌界のありかたに大きな変化が起こっていることを物語るエピソードであることは確かでしょう。