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デジタル時代の健忘症
先日、海外のニュースを見ていて、digital amnesiaという語を知りました。
“As more and more of our information is stored online, less and less of it is stored in our brains”(より多くの情報がネット上に保管されるようになるにつれて、人間の脳に保存される情報が少なくなっていく)とのことで、スマホやタブレットPCの普及によってあらゆる情報を検索できるようになった結果として、自ら記憶するという行為を省略するようになるという話のようです。
このdigital amnesiaという言葉ですが、日本語では「デジタル健忘症」とか「デジタル記憶喪失」などと訳されています。個人レベルとは比べ物にならない集合知が存在し、かつ自由な検索ができるようになった今日では、「何か知りたいことがあるならば、知りたいと思ったそのときに検索すればよいし、その後は忘れても構わない」との発想が出てくるのも至極当然なように思われます。「デジタルへの過度の依存によって人間の記憶力が損なわれている」と考えるのも正しいですが、「デジタルの活用によって、個人が多くのことを記憶する必要がなくなった」ともいえます。デジタルネイティブでない世代の人間にとって、「検索すればわかることだから憶えなくてもいいや」と考えることは、どこか怠慢なようで後ろめたいことのようにも感じられますが、そんな発想はなくなるのかもしれません。
少し話はそれますが、音楽を聴くという行為を例にとると、古くはアナログレコード、カセット、そしてCDと、物理的なメディアを所有して聴くのが一般的でしたが、音楽配信が一般化した結果、データとして保有していれば十分となり、モノとして所有する意義が薄れました。今日では、そのデータすら個人のハードディスクではなくオンラインに蓄積され、聴きたいときにアクセスすればよい、あるいは定額の料金を支払うことでガスや水道のように楽しめばよい、という視聴スタイルが出てきています。これも、
digital amnesiaという現象は、現代に登場するべくして登場した現象ということができると思いますが、今のところ学術論文レベルではほとんど取り上げられていないようです。今後、日本国内でも研究が進められることを期待したいところです。